フィリピン発・世界を席巻するファストフード「ジョリビー」のマーケティング戦略

フィリピン発のファストフードチェーン「ジョリビー」は、単なる海外進出企業ではありません。地元文化に根ざした味と、国ごとに柔軟に適応する戦略で、世界17か国に広がるブランドへと成長しました。本記事では、マーケティングの4PやI-Rフレームワークを使って、筆者が現地で体験したエピソードも交えながら、ジョリビーの魅力と戦略を考察します。

ジョリビーとは

ジョリビー(Jollibee)は、フィリピンを代表する国民的ファストフードチェーンです。1975年にマニラでアイスクリーム店としてスタートし、1978年にホットミールへと業態転換して誕生しました。今では親会社のジョリビー・フード・コーポレーション(JFC)が世界17か国・1700店舗以上を展開し、アジア最大級のレストラン企業に成長しています。

看板メニューは、外はカリッと中はジューシーな「チキンジョイ(Chickenjoy)」、フィリピン独特の甘いソースを使った「ジョリースパゲッティ(Jolly Spaghetti)」、そしてデザートの「ピーチマンゴーパイ」。味付けは総じて甘めで、日本人の感覚ではやや驚くかもしれませんが、これはフィリピン文化の特徴です。コーヒーやパンまで甘いことが多く、甘味は現地の生活に根付いています。

私自身、セブ島やシンガポールで何度か訪れましたが、現地の人々にとっては単なる食事の場ではなく「家族や友人と時間を過ごす場所」という印象が強いと感じました。昼時には大人数の家族連れや学生で賑わい、誕生日会が開かれている光景も珍しくありません。

ジョリビーのビジネスモデルを4Pで分析

ジョリビーをもう少し詳しく理解するために、4Pで整理してみましょう。

Product(製品):ジョリビーの製品戦略は「ローカルの味をそのまま世界へ」が基本です。代表的なチキンジョイはグレービーソースをかけて食べるスタイルで、スパゲッティはバナナケチャップベースの甘い味付け。国ごとにローカライズも進めており、ベトナムではスイートチリチキン、イギリスではハラール認証メニューを提供しています。

Price(価格):価格は中価格帯。家族向けのシェアメニューやコンボセットが中心で、ボリュームの割に手頃感を演出します。米国では100%アンガスビーフのクラフトバーガーを$5.99で投入するなど、品質と価格のバランスを意識しています。

Place(流通・立地):立地はショッピングモール、繁華街、郊外ロードサイドなど多様。デリバリーやピックアップにも積極対応しています。海外展開ではフィリピン人コミュニティが多い地域を起点に、その後現地の一般層へ広げる戦略をとっています。

Promotion(販促):特徴的なのは「Kwentong Jollibee(ジョリビー物語)」という短編動画シリーズ。家族の絆や恋愛など感情に訴える物語を毎年制作し、SNSで拡散しています。単なる商品の広告ではなく「ジョリビー=心温まる時間」というブランドイメージを浸透させることに成功しています。

ジョリビー vs マクドナルド

フィリピンは、マクドナルドが唯一トップシェアを取れない国として有名です。その理由は、ジョリビーの徹底したローカル対応にあります。甘いスパゲッティやライス付きのチキンセットなど、フィリピン人が日常的に好む味や組み合わせを提供し続けてきました。マクドナルドが世界標準メニューで勝負するのに対し、ジョリビーは「フィリピンの味」を守ることで顧客の心をつかんでいます。

私が現地で感じたのは、ジョリビーには「懐かしさ」があるということ。マクドナルドが都会的・グローバルな印象なのに対し、ジョリビーは家族的で温かい雰囲気を醸し出しています。この情緒的な差がブランド選好に影響しているのでしょう。

I-Rフレームワークで見るジョリビー

I-Rフレームワーク

I-Rフレームワークは、企業が海外市場に進出する際の戦略を「グローバル統合(Integration)」と「ローカル適応(Responsiveness)」という2つの軸で分析する方法です。この2軸の組み合わせによって、企業は「グローバル型」「マルチナショナル型」「インターナショナル型」「トランスナショナル型」に分類されます。

  • グローバル統合:世界中で製品や戦略を統一し、規模の経済を追求すること。
  • ローカル適応:国や地域ごとの文化・嗜好に合わせて製品やサービスをカスタマイズすること。

ジョリビーは、ローカル適応度の非常に高い「マルチナショナル型」に近い戦略をとってきました。各国の嗜好に合わせたメニュー開発や宗教対応(ハラールなど)を迅速に行い、現地消費者に寄り添っています。

たとえば、他の国の例で言うと、中国のKFCにはお粥、マレーシアのマクドナルドにはナシレマがあるように、ファストフード業界ではこのローカライズが成否を分けます。

ジョリビーは今後も買収や提携を通じて、現地ブランドを取り込みながら市場を広げていくと考えられます。実際、台湾の家庭料理チェーンや海外ブランドへの投資を積極的に行っており、アジア太平洋地域での存在感を強めています。

なぜジョリビーは日本に進出しないのか

現時点でジョリビーは日本に店舗を持っていません。理由はいくつか考えられます。

まず、日本はマクドナルド、モスバーガー、ケンタッキーなど競合が多く、外食市場が成熟しています。さらに、ジョリビーの味は米国型ファストフードをベースにフィリピン風の甘さを加えたものですが、このテイストが日本の一般消費者にどれだけ受け入れられるかは未知数です。中途半端なローカライズでは既存ブランドに埋もれてしまうリスクがあります。

また、日本は人件費・不動産コストが高く、採算ラインに乗せるためにはかなりの集客力が必要です。そのため、今のところ北米や東南アジアなど成長が見込める市場を優先しているのでしょう。

ただし、JFCは海外ブランドの買収にも積極的で、日本のローカルチェーンを買収してジョリビー色を部分的に取り入れる…というシナリオも考えられます。もしそうなれば、単独進出よりもスムーズに市場に馴染めるかもしれません。


ジョリビーは、「フィリピンの味を世界へ」という一貫したコンセプトを軸に、強いローカル適応力とブランドストーリーテリングで成長してきたファストフードチェーンです。その成功の背景には、単なるメニュー開発だけでなく、家族やコミュニティとのつながりを重視するマーケティング姿勢があります。

私自身、セブ島やシンガポールで体験したジョリビーは、味だけでなく「場の空気」が印象的でした。甘いスパゲッティやチキンの味もさることながら、そこで過ごす時間そのものが商品価値になっているのです。

日本進出はまだですが、その日が来れば、私も真っ先に駆けつけたいと思います。甘いチキンとスパゲッティが、日本人の舌と心をどう掴むのか——そのマーケティング戦略に注目です。