中国発のミルクティーブランド「CHAGEE(霸王茶姬)」は、2017年に雲南で誕生した比較的新しいブランドです。しかし、その成長スピードは目を見張るものがあり、わずか数年で国内外に6000店舗以上を展開するまでに拡大しました。特にここ2〜3年の成長は著しく、私が上海に住んでいた2022年頃はほとんど耳にしなかったブランドが、今では上海のあらゆるショッピングモールで見かける存在になっています。
興味深いのは、その存在感の広がり方です。私が上海に住んでいた2019-2022年頃はHeyTea(喜茶)が大きな話題を集め、上海の若者文化を象徴する存在でした。しかし2024年以降、中国への旅行者が投稿するVlogを見ていると、必ずと言っていいほどCHAGEEのカップを手にしている姿が映し出されます。
旅行者だけではなく、中国現地からの人気が凄まじく、私自身、上海の中国語の先生から「飽きないので上海に来たら1日3杯飲んでください」と勧められたことがあるほどす。
CHAGEEの強みは、単なる「お茶を売るブランド」にとどまらない点です。彼らが目指しているのは、コーヒーに押されてきた茶文化を現代的に再定義し、「お茶を飲む」という行為をクールで洗練された体験に変えること。いわば20年前にスターバックスがコーヒーをライフスタイルに昇華させたように、CHAGEEはお茶を再びグローバル市場で輝かせようとしていると感じます。
CHAGEEの特徴
まずはCHAGEEというブランドについて、4Pの観点で整理してみましょう。
Product(製品):CHAGEEの大きな特徴は「高品質な茶葉へのこだわり」です。多くの競合ブランドが「タピオカ」「チーズフォーム」などトッピング文化を武器にしたのに対し、CHAGEEはあえてトッピングを廃し、「お茶そのものの香りと味わい」にフォーカスしました。代表的な「ジャスミン緑茶ミルクティー(現BO·YA)」は年間6億杯以上も売れる看板商品で、産地や製法を強調することで“本物の味わい”を提供しています。さらに、各国の文化に合わせた限定商品や店舗デザインを取り入れ、単なる飲料以上の体験価値を提供しています。
Price(価格):CHAGEEの価格帯は中国の新茶飲市場の中では中〜高価格帯に位置します。例えばインドネシア市場では30,000〜56,000ルピア(約300〜560円)程度と、現地の一般的なタピオカブランドよりやや高めに設定。これは「手軽に買えるラグジュアリー」としてのポジショニングを意識している証拠です。消費者にとっては“少し高いけれど、それだけの価値がある”ブランドとして認識されやすく、ブランドエクイティを蓄積しやすい価格戦略と言えます。
Place(流通):店舗展開のスピードは驚異的です。2023年末時点で国内に3500店舗だったものが、2024年には6000店舗近くまで拡大しました。出店場所も戦略的で、上海では必ずといっていいほど人気のショッピングモールの1階に入っています。さらに、マレーシアやタイ、シンガポールなど東南アジアでも存在感を増しており、ジャカルタでは現地アーティストとコラボレーションした店舗も登場しました。これは単なる出店ではなく、地域文化と融合したブランディングの一環として機能しています。
Promotion(プロモーション):CHAGEEはプロモーションでも独自のアプローチを取っています。象徴的なのは、ジャスミン緑茶ミルクティーを「BO·YA」とリブランディングした事例です。中国の古典に由来する名前を与え、単なる商品から「物語のある体験」へと昇華させました。さらに、パリ・オリンピックでのポップアップ出店や、スポーツ選手とのコラボ、そしてインフルエンサーや旅行者のUGC活用など、感情的な結びつきを強化する施策が多い点も特徴です。
CHAGEEのユニホームデザイン

CHAGEEのユニホーム刷新は、ブランディングの成功事例として特筆すべきものです。2024年、全身ブラックの旧ユニホームから一新し、スタッフが自分の好みに合わせて選べる3種類のスタイル(ストリート、モダン、ムスリムフレンドリー)を導入しました。カラーは茶葉をイメージしたブラウンを基調に、控えめなロゴや茶馬古道を思わせる模様が取り入れられています。
この動きがユニークなのは「ユニホームをブランド体験の一部」と捉えている点です。制服は単なる業務服ではなく、顧客と接する最前線の“ブランドメッセンジャー”です。従業員自身が誇りを持って着られるデザインにすることで、接客態度や自信にもつながり、結果として顧客体験の質が向上します。私はこれを「インナーブランディングの好例」と捉えています。外向けのロゴや広告だけでなく、社員・スタッフがブランドをどう感じ、どう表現するかがブランドの本質を決定づけるからです。
ブランドエクイティとは

ブランドエクイティとは、企業が持つ無形資産としてのブランド価値を指します。CHAGEEの急成長は、このブランドエクイティを短期間で築き上げた結果といえます。ブランドエクイティは以下の4つの要素で構成されます。
- ブランドロイヤルティ:中国の若者や旅行者が「CHAGEEを飲むこと」そのものを楽しみ、何度もリピートする。上海人の先生が私に「1日3杯飲める」と勧めてくれたことにも象徴されます。これは単なる嗜好品ではなく“日常習慣”に変わっている証拠です。
- ブランド認知:ここ2年で一気に認知度を高め、上海の主要モールでは必ず見かける存在になりました。消費者の「どこにでもある安心感」がブランドの定着を後押ししています。
- 知覚品質:トッピングを廃して茶葉の質にこだわる戦略は「健康的で上質」というイメージを醸成し、多少高くても選ばれる理由になっています。
- ブランド連想:「東洋の美学」「文化的ストーリー」「高級感」といった連想が消費者の頭に自然と浮かぶ。これが単なる飲料ブランドとの差別化を生み出しています。
CHAGEEが短期間でブランドエクイティを築けたのは、「商品」ではなく「体験」に価値を置いたからです。お茶そのものの品質だけでなく、店舗空間、ユニホーム、ストーリーテリングといったあらゆる接点が一貫してブランドを体現しているのです。
特に感じるのは、CHAGEEが単なる“商品”ではなく“ライフスタイルの象徴”として認識され始めていることです。スターバックスがコーヒーを「居場所」「時間の過ごし方」と結びつけたように、CHAGEEはお茶を「文化的で洗練された自己表現」として再定義しつつあります。これはまさにブランドパーセプションの成功例といえるでしょう。
CHAGEEのブランディング戦略は、「お茶の再定義」にあります。高品質な茶葉を武器にしながら、文化的な物語、スタイリッシュな体験設計、スタッフのユニホームまでを一貫したブランド表現に組み込み、消費者に「飲む以上の価値」を提供しています。
私が上海で暮らしていた頃、HeyTeaが全盛だった時代からわずか数年で、ここまでブランドが存在感を高めるとは想像していませんでした。CHAGEEの成長を見ていると、「ブランドとは顧客体験そのものだ」という原点に立ち返らされます。ロゴや広告は表面的なものにすぎず、本当に重要なのは“顧客がどう感じるか”なのです。
CHAGEEが今後、どのように世界市場で「お茶のスターバックス」になっていくのか。ブランドエクイティとブランドパーセプションをさらに磨き上げ、文化を越えて愛される存在になる可能性は十分にあるでしょう。
参考